IGPI VOICE

メルカリを「正しい方向に導く」

河野 秀治

株式会社メルカリ上級執行役員 SVP of Management Strategy

2008年12月入社

アルムナイ

急拡大するスタートアップを強い組織に変える

2018年7月、メルカリの山田進太郎社長兼CEOから誘われ、上場直後のメルカリへ入社しました。創業4年半で上場した当時のメルカリは、事業と組織の規模が短期間で急拡大にしたことに伴い様々な課題が生じていました。そこで、成長を妨げるような問題を敏感に感知し、CEOと共に先回りして手を打っていくための専属チームをつくろうと考え、CEO Officeという部署をつくり、そこをリードすることになりました。

最初に行ったのは、事業再編です。当時のメルカリは市場のトレンドに対応するため、同時期に多くのサービスを展開させていました。スタートアップと同じように危機感を抱き、ダイナミズムを維持する必要がありますが、様々なことに同時に対応するには、資金面でも人材リソース面でも限りがあります。加えて、ある事業を拡大させるにも、スタートアップとは異なり、2,000人を超える大規模組織を動かして行く必要がありました。そこでまず取り組んだのは、「何をやらないのか」「何をやるのか」という方針を暗黙知ではなくて形式知にすることです。事業の「焦点」を明確にし、それを時間軸で分解した「ロードマップ」というマテリアル作成を通じて、全社のベクトルを合わせました。その過程では多くの摩擦を生みましたが、結果として急拡大する組織を纏め、強い大組織に変えることができたと考えています。

IGPIの仲間がリーダーシップのベンチマーク

金融機関にて投資事業に携わっていたころ、リーマン・ショックが勃発。金融システムが大きく揺さぶられるなか、今後は企業再生の重要性が高まると考えていた時に、IGPIの共同経営者(パートナー)である塩野誠さんに誘われてIGPIに入社しました。IGPIに在籍したのは3年ほどでしたが、パートナーたちからはリーダーシップのあり方や立ち居振る舞いを学んだほか、一緒に働いたミドルリーダーたちの人を動かす人間力に感銘し、刺激を受けました。IGPIでの貴重な経験が、私の指針になっています。

特にビジネスパーソンとしての飛躍の支えとなっているのは、企業再生のプロジェクトで悩んでいた時に、IGPIの代表である村岡隆史さんから投げかけられた言葉です。当時私は、クライアントの経営陣に対して正しい分析をもとに正論をぶつけていました。当時の私はそれがプロとして正しいことであると考えていましたが、なかなか実行に移されることはありませんでした。私はその理由が分からずオフィスで不満を漏らしていると、村岡さんが私の作ったプレゼン資料を見て、「これは正しいことを言っている。けれど、正しいことを言うのが君の仕事ではない。正しい方向に導くことが君の仕事だ」と声をかけてくださったのです。頭に雷が落ちたような衝撃でした。

その業界で百戦錬磨の社長にとっては、私たちが出した提案の正しさは百も承知していたし、何年も前から分かっていたことでした。しかし、提案で名指しした事業や拠点を閉鎖するということは、苦楽をともにした同期の事業長から働きがいを奪うことや、人員削減を伴う大型リストラはOBから猛反対を受けていることなどが、その社長の実行力を削いでいたのです。私はようやく、彼らの発言の真意やジレンマを理解することが先だと気づきました。正論はいつも鋭く、一刀両断に人の心を切り裂きます。しかし、言われた人にとっては、深い傷となり、それ以降、心を開いてくれるのは難しくなるということを学びました。

それからは、社長に代わってリストラ対象となる拠点やOBを訪問し、彼らの思いに耳を傾け、対話を繰り返しました。もちろん全員の要望に応えることは難しいのですが、一人ひとりと真摯に向き合い続けるうちに、再生計画が正しい方向に動いてくれることが多くなりました。今でも、厳しい局面に立たされた時こそ、「合理と情理」から逃げず、ヒトを理解することに向き合い、折り合いをつけることを意識しています。

「経営の仕組み」を作りつづける

IGPI卒業後は、起業やスタートアップの経営に参画しIPOも経験することができましたが、現在はメルカリという大規模なマーケットプレイスを営む会社にいます。メルカリのホールディングス役員として、CEOとともにグループ経営を担当し、経営戦略室のほか、HR、セキュリティ、ITインフラ、ESG、広報、政策企画、スポーツビジネス、R&Dなどを直轄しています。大きな組織の経営者に求められることは、事業成長に繋がる経営の仕組みを作りつづけることに尽きます。伝統的企業と異なり、IT企業を取り巻く環境の変化は早いため、経営システムはあっという間に耐用年数を迎えます。半年、1年といったペースで見直し、作り直さないと、成長を維持することも難しいですし、インシデントを招くリスクもあります。現在メルカリは流通高で1兆円を超えるまで成長していますが、国内だけでも未だ厖大な成長余白があると思っています。更なる成長に向けてまだまだ課題は山積みです。

日の丸背負う「青臭さ」を忘れない

IGPIに集まる人材には「青臭い部分」があると思います。日の丸を背負って仕事をするという気概を持ち、様々なステージの企業を支援することを通して世界を変えていきたいと考える人たちばかりです。そんなIGPIの仲間に囲まれながら修羅場を乗り越えていくことで、リーダーとして大きく成長できると思います。

また、卒業生にも高い視座で世の中に面白いことを仕掛ける人がたくさんいることも魅力の一つだと思います。実はこの度、メルカリの社外取締役にIGPIの冨山和彦さんに就任していただきました。このように、いまIGPIグループで活躍している人たちと、卒業して新たな分野で活躍している人たちが、IGPIマフィアのネットワークを形成し、ベクトルを合わせて、産業界に新しい風を起こせる日を楽しみにしています。

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