IGPIグループは何にこだわってきたのか?~「3つの約束」に込めた想い~
IGPIグループは2024年10月1日に持株会社体制に移行するとともに、グループ各社が社内外に対して守っていく「3つの約束」を策定しました。IGPIグループ共同経営者の村岡隆史、松本順、坂田幸樹がこれまでの活動の中で大切にしてきた価値観と、そこに通底する「3つの約束」について語り合いました。
設立当初から通底・実践してきた価値
村岡 2024年10月1日に持株会社体制に移行したのは、グループとして事業探索のスピードを加速することと、各事業子会社が経営の独立性を持ち、意思決定の質とスピードをさらに高めることが目的です。現在、従業員数はグループ全体で約8,500人にのぼります。グループとしての統一感や求心力を強化し、対外的に私たちの考えていることをシンプルにわかりやすく伝えるために、グループのフィロソフィを再定義しました。
坂田 IGPIグループはいろいろな事業を展開し、ひと言で説明しづらい組織です。日本は文化、価値観、生活様式が比較的一貫している同質的な社会ですから、コンサルティング事業をしている、東北地方でバス事業をしていると、具体の説明をしていけば、なんとなく理解してもらえますが、海外では上手く伝わりません。特にシンガポールは中華系、マレー系、インド系の人たちがいる多民族国家で、各民族や文化の違いにより、同じ情報でも受け取り方や解釈が異なることがあります。「うちはこんな約束を守っている会社です」というようにグループ全体を俯瞰し、抽象化して説明できる言葉があるといいと思っていました。
村岡 それで「Authentic :本質的な社会益の飽くなき追求」「Transformational :リアリティと先進性のたゆまぬ向上」「Integrity: 誠実性を常に体現」という3つの約束になったわけですが、新たに考えた言葉というよりも、過去17年間、取り組んできた経験から自然に湧き出したものという実感を持っています。IGPIグループはコンサルティング、投資と事業経営、インキュベーションを国内や海外で行っていますが、基本的にお客様や社会との長期的関係の中で価値を共創することが多いので、自然にこの3つは必要となります。それは日本で企業再生のプロジェクトをするときも、海外でクロスボーダー取引をするときも同じです。
坂田 今回この3つの言葉をつくるかどうかを検討する段階からディスカッションに参加しましたが、おっしゃるように、改めてこうなりたいと考えるよりは、プロジェクトや投資案件の意思決定、普段の行動に通底するものを抽象化したというイメージがあります。日々仕事をする中で、会社や自分の価値観を試される瞬間がありますが、それを思い出しながら言語化しました。英語のワーディングは海外メンバーとも相談しながら考えたので、グローバルで共感してもらえるものだと思っています。
松本 3つの約束のうち「Authentic」、すなわち社会益が最上位の概念だと私は捉えています。社会環境が変化していく中で、自分たち自身もトランスフォーメーションを続けていかないと、本質的な社会益は追求できません。それと同時に、会社や事業主体、それを構成する個人が不誠実では、社会益は実現しません。これはユニバーサルなもので、特に宗教や信条の違いがあるからこそ、同じ人間としての誠実さで真正面からつながらないと、どこかで誤解が生じてしまいますよね。
未曾有の危機に、試される価値観
松本 私はIGPIで事業再生の領域に力を入れてきましたが、窮地に陥った事業を蘇らせるときに常に行うのが、最初の段階でその事業の存在意義、今風にいうとパーパスを再定義することです。なぜそれが必要かというと、隆々とした会社と違って、困った状態になった会社は自分たちの目指すべきもの、もたらすべき社会益を忘れてしまっているからです。そこでパーパスを再定義し、幹部や全社員で共有して、もう1回やり直す。そうすることで世の中に再び社会益をもたらすことが可能となり、適切に収益を上げて、回復を遂げていきます。
村岡 私自身の経験とも合致します。逆に言うと、社会益をしっかりと定義し共有できている組織は、環境変化の中でもなかなかつぶれないし、再生もしやすい。社会益の乏しい企業は、再生しにくい。インキュベーションも同じで、私が常にスタートアップ企業に問うのは、社会益をどう考えるかということです。社会益を明確に定義して、共感を受ける企業は周りからも支えられて伸びていきます。
松本 事業再生はどのように社会益をもたらすかを再定義するのに対して、スタートアップは最初から定義する。そこが違うだけで、あとは同じなのかもしれませんね。
私は交通インフラ事業に十数年携わっていますが、振り返ってみると、3つの約束をそれなりに体現できてきたように思います。あらゆる目的で移動したい人を安全に運ぶことは社会益をもたらします。たとえば、東日本大震災時には、福島原発付近の住民の避難輸送に多くのバスを出しました。そのときにも特に社会益を意識したわけではないのですが、意思決定の背景には、そういう価値観があったのだと思います。
村岡 IGPIグループ全体で見ると、公共性が高いプロジェクトの比率が高くなっています。みちのりに象徴される公共交通の経営を始め、先端技術共創機構(ATAC)では多くの大学と協働しています。また、国際協力銀行(JBIC)と組んで海外で展開しているベンチャーキャピタルは、単に収益を上げるだけでなく、国富を利用するため国益にもかなうものでないといけない。
社会益を大切にしながら、株式会社として利益を確保することは、時には相反する局面も出てきます。特に自然災害は避けて通れず、私たちが永久に背負わないといけない責務です。松本さんは震災時の対応で、社会益と事業利益の関係をどのように整理していたのでしょうか。
松本 未曾有の事態でしたから、みちのりグループの幹部を率いる立場として、実はその先に経営の連続性はないかもしれないと覚悟していました。原発避難輸送でバスを出したときは、経済的見返りよりも、何とかして地域の産業や人の暮らしを復旧させなくてはならないという想いが先にありました。心の奥底でどこかに光を求めていたのかもしれません。結果として対価をいただくことができ、社会のためにできる限りのことをすれば、見返りがあるのだなと感じました。そういうものがレバレッジになって、みちのりグループは立ち直ることができ、本当に稀有な体験だったと思います。
社会益に直結するグローバル・プロジェクト
村岡 IGPIグループの特徴は、コンサルティングでも投資でも、ハンズオンでお客さまの現場に入って、共創しながら価値を実現するビジネスモデルにあります。経営理念を書き物で終わらせずに、現場の行動に移せるかどうかが本当のチャレンジです。IGPIでは、現場に入って価値を実現する人は自ら手を上げて、地方や海外に居を移し、10年、20年という長い時間軸でコミットします。そして、それをしっかりと組織が支える仕組みがあります。これが私たちの3つの約束の果たし方です。
坂田 私は現在、シンガポールを拠点に周辺諸国で活動していますが、東南アジアやインドでは、空気が汚い、道が混んでいる、食べ物が危険であるなど、社会問題と向き合うことが必然的にプロジェクトになってきます。たとえば、約7割のトラックが積み荷で満たされないまま走行している状況や空荷で走行している状況を解決できれば、渋滞を減らせるし、結果的に脱炭素にも貢献できます。日本よりも差し迫った時間軸で、今日や明日の社会問題に向き合って本来の社会益を追求するためには、すべてにおいて誠実さと信頼性が欠かせません。
ある東南アジアの案件では、それが本当にクライアント企業にとっていいことなのかと、関係者から指摘されたことがありました。IGPIとして本当にそれが誠実なのか、クライアントやスポンサーが置かれている状況ではどうなのか。いろいろな見方で考えつつ、常に誠実さを意識しなくてはなりません。特に、IGPIではアドバイザリー、投資家、経営者の3つの帽子を使い分けることがあるので、頭の切り替えがすごく重要です。
既得権益をデジタルの力で変えようとするプロジェクトもありますが、そこでは3つの約束でいうところの「Transformational」の側面が前面に出てきます。このように私の場合、新興国という今いる場所が3つの約束と向き合わせてくれているように感じています。
松本 社会的インパクトが企業価値に影響を及ぼし、資本市場が社会的サステナビリティに真正面から反応する、そういう世の中がついに来たのかと思うと、感慨深いですね。みちのりグループも今、ベトナムで事業をしています。新興国で公共性の高い交通インフラ事業に携わっていると、それによって社会システムが整っていくという手触り感があります。事業としても楽しみですし、3つの約束という意味においても、やりがいがあります。
問題解決のために変わり続けていく
村岡 ベトナムの事業展開は素晴らしいので、このような事例を飛躍的に増やしたいですね。IGPIグループは新しい事業を次々と展開してきましたが、ことさらトランスフォーメーションを意識してきたわけではありません。社会課題やお客様の課題が日々変わっていくので、それに向き合うと、自然に自らも変わっていたという感覚です。ソリューションのあり方は日々変わります。デジタルやAIも課題解決に必要だから、自然と使っているだけです。今はコンサルティング、投資と経営、インキュベーションという3つの事業が中心ですが、その範囲が空間的にも産業的にも広がり、第4や第5の柱ができてもいいと思っています。
坂田 私たちはおそらくストラテジー・ドリブンというよりも、ビジョンやケイパビリティ・ドリブンだから、環境に合わせて柔軟に変わることができるのではないかと思います。たとえば、東南アジアでの活動をする中で、当時ベトナムの不良債権問題の話が出てきました。それで、現地に拠点をつくると、リレーションができて、民間企業からも相談が舞込むようになった。あるいは、オーストラリアに拠点をつくると、現地のイノベーションや大学の課題について相談される。そうやって、もともと持っていたケイパビリティを使えば、対応できることは多いんです。自分にできなければ、誰かと連携したり、新たに培ったりしていく。その意味で、アプリケーションは多様化していますが、骨格そのものは変わらないし、ケイパビリティを高めようとしているだけです。
松本 IGPIグループのパートナーは才能あふれるプロ集団の集まりで、守るべきものは守りながら、新しいものを同時に実現して変化を求めていくことができます。ただ、こうした深化と探索を両立させる両利きの経営はそう簡単ではありません。みちのりグループでは、横串を刺して複数の中堅企業を1つにまとめ、そこから出てくるキャッシュフローや知恵、変化の機会を活かす仕組みを持っています。持株会社に探索活動に特化したR&D組織を置き、そこから電気バスのEMS(エネルギーマネジメントシステム)、自動運転、ダイナミックルーティングのような新しいサービスやオペレーションが紡ぎ出されています。そういう組織体系を意識してつくることは多くの業種において効果的だと思います。
世界で唯一無二の存在になる
村岡 2人の話を聞いて改めて思ったのは、社会課題や問題の本質的な部分に敏感であることが出発点になるのではないかということです。アジアや途上国、過疎化した社会には、それぞれ課題があり、それに気づき、正面から向き合うということを私たちはやり続けてきました。そういうことが好きで求めている集団だと思います。そこに逃げずに向き合えば、解決するための道具、方法論は生まれてきます。すべて自前でつくる必要はありません。一番良いものを使えるようにすることが大切ですね。
坂田 日本で生み出したものをグローバルに展開していくことは、私たちのビジョンです。今後も3つの約束と真剣に向き合って事業の形を考え出し、現地メンバーも主役になれるファームをつくっていきたいと思います。
松本 変化を続け、かつ誠実に社会益を追求する。職人気質、玄人の世界の本当のプロ集団でないと、そんなことは言えません。私たちIGPIグループは真のプロ集団として、この3つの約束を全員で果たしていく。特にパートナーが引っ張らないといけませんね。
村岡 私は常々、IGPIを普通のグループにしたくないと思ってきました。グループ各社がそれぞれの分野で唯一無二を追求し、信頼を築き、共創して圧倒的な価値を実現していく。同時に、グループ総体で見たら求心力があり、各社がIGPIらしいと言われる。そういうグループであり続けたいと思います。日本国内では社会的な認知を高めてきましたが、これからは世界でもIGPIグループの唯一無二性を評価してもらえるように頑張っていきましょう。