IGPI’s Talk

#23岩﨑 真人×村岡 隆史 対談

グローバルで持続的に価値を発揮する組織をつくる秘訣

IGPIグループは世界の経営と経済に貢献していくために、北欧・バルト地域やシンガポール、上海など海外拠点を拡充してきました。武田薬品工業株式会社にて、グローバル経営への転換を推進し、現在はIGPIシニア・エグゼクティブ・フェローとして活動する岩﨑真人とIGPI代表の村岡隆史が企業のグローバル化を加速させるポイントについて議論しました。

必然性がないとグローバル化は成功しない

村岡 武田薬品工業(以下タケダ)とは、創業時からIGPIの理念にご賛同いただき、迷わず株主になっていただくなど、深いご縁があります。タケダはグローバル経営を実践してきた数少ない日本企業だと思います。我々は世界の経営と経済に新たなパラダイムをつくることを目指していますが、日本で活動するだけでは世界最先端の経営ノウハウを吸収し、新たに生み出すことはできません。そこで今日は、タケダでのご経験から2つのことを学ばせていただきたいと思います。1つが過去20年間、グローバル経営の道を進化させてきたプロセスやチャレンジについて。もう1つは、多様性を認めつつ、全世界で統一すべきことをどのように決めて実行してきたのか。どちらもユニバーサル(普遍的)な学びになると思います。

岩﨑 タケダのグローバル化の根底には、そうなりたかったからというより、医薬品ビジネスが変わってグローバル企業にならざるを得なかったという事情があります。というのも、新薬の研究開発は高度化し、成功確率が大幅に低下する一方で、新しいテクノロジーを用いて開発するので研究開発費が2倍や3倍になりました。日本という1つの閉じられた市場だけでは採算がとれなくなったのです。

それから、薬の製品ライフサイクルを考えると、ある市場で寿命を終えた薬でも世界中で使われ続ける可能性があります。たとえば、先進国では今、いわゆる生活習慣病のマーケットが大きいのですが、発展途上の国々では、かつて日本がそうだったように、抗生物質に一番バリューがあります。つまり、現時点で国による違いがあっても、将来的には同じような疾患の過程をたどる。そういう観点で、タケダは今の世の中プラス今後10年間の医療に貢献する薬をつくろうと考えるようになりました。その選択は、グローバル化しないと実現できないため、何のためらいもなく舵が切れたのです。

村岡 グローバル化の必然性が問われるわけですね。IGPIの場合、パーパスや設立理念を実現するためには、世界の最先端の経営の取り組みを常に学び、自らが経験し、理論と実践を通じて昇華させて発信するプロセスを継続する必要があります。また、投資を用いて経営に関わるためには資本力が必要で、それにはグローバルでスケールを効かせなければならない。その2つの意味で、グローバルに拠点を持ったグループにならないと、自分たちの役割を果たせないと思っています。もちろん、このグローバル化のやり方にはIGPIならではの戦略性、例えばL(ローカル)とG(グローバル)を組合わせた展開などが必要です。今は、そうした取り組みを加速するフェーズにありますが、そこで役立つ知見があれば、ぜひお聞かせください。

失敗からの学びを繰り返し、進化する

岩﨑 加速させる前提として、従業員に目指す方向性を理解してもらうことが大切です。私がタケダで恵まれていたのは、創業家出身の武田國男さんが言葉の天才だったことです。「日本発の高度に統合された研究開発を基盤とするグローバル・ファーマシューティカル」と何度も聞かされ、よくわからないけれど、すごく気持ちよく感じました。そういう言語化できるものがあると、人は理解するのだと思います。

グローバル化に向けていろいろなトライアルをしましたが、そう簡単にはいきません。最初は、多くの日本企業がしているように、現地でマネジメントを雇って、そこに日本人が行って管理や監視する方法を試しましたが、信頼関係もできないし、ダイバーシティが進まない。それに気づいたので、日本から人を送る目的は、勉強させるためと考え方を改めました。

海外拠点の置き方でも試行錯誤しました。まずR&Dのヘッドクオータ機能を日本からシカゴに移しました。イノベーションを評価し、価値に変えて、次の投資をするためには、日本よりもアメリカのダイナミクスが必要だと考えたのです。ただ、それだけではうまく動かず、次に、湘南に研究者を集めてグローバルの基礎研究拠点としました。残念ながら、日本が得意とする低分子化合物は世界のトレンドから取り残されていました。我々が目指す薬に必要なバイオロジクスの領域が一番進んでいたのはボストンだったのです。そこで、バイオロジクスに関わる研究はボストンに移し、低分子化合物と日本が世界に誇るイノベーションであるiPS細胞の研究は日本に残すことにしました。一番得意な場所で一番得意なことに取り組む。当たり前の原則ですが、IGPIにも参考になるかもしれません。

村岡 マネジメントのスキルや技術は日進月歩で進化していきます。その進化が早い場所に拠点を持ち、イノベーションを取り込める状態をつくっておくことが絶対必要だと。それは、もしかするとアメリカかもしれないし、アジアではシンガポールかもしれませんね。

岩﨑 IGPIは北欧などに投資関連の組織を持っているので、そこでも多くの方と接点がつくれますよね。それから、シンガポール拠点も効果的に使えると思います。アメリカ企業も日本企業もたくさん進出していますし、もともとシンガポールの進化の歴史を作ってきた企業もいます。個人的にはシンガポールの医療や保険制度に注目していますが、ほかの領域でもイノベーションが集まってきて、ダイバーシティに富んでいると思います。

レイヤーを変えれば、多様化と統一は矛盾しない

村岡 IGPIグループでは、ローカルでの企業経営に優れた人材と、グローバルのクロスボーダー・プロジェクトに強い人材の両方が必要ですが、1つの物差しで評価できないし、言語や文化の壁も生じます。タケダはどのようにマネージしてきたのでしょうか。

岩﨑 それは今でも課題だと思います。たとえば、「グローバル=アメリカ」という誤解があり、日本の従業員がよく言っていたのは「アメリカ人のほうが恵まれている」、「俺たちは取り残された」ということです。それに対する私の説明は、グローバルで80カ国あるのに、なぜアメリカと比較するのかと。そういう頓知のようなやり取りと並行しつつ、マネジメント層の評価はグローバルで統一し、グローバルでの成長や全社にどれだけ貢献できているかという点の評価ウエイトを大きくしました。給与制度やタイトルの統一は、いろいろな状況があってそう簡単ではないのですが、少なくともポリシー部分は1つにすることが大切です。自分たちはどういう組織で、何に貢献しているかと10人に聞いたら、みんな同じように答えられるか。そこが鍵になってきます。

村岡 タケダはコーポレート・カルチャーやパーパスを変えずに、何度も言い続けたから、みんな腹落ちし、世界の従業員もそれを望んでいた。それに対して、完全に腹に落とせない人は自然とグループから離れていく――これは日本企業だけではなく、世界の組織にとって必要な考え方で、人間の本質に迫る部分だと思います。

岩﨑 それもトライアルして学んだことの1つです。たとえば、ある会社を買収した際、人材に残ってもらうために、大きなグループ傘下でも独立した形をとったのですが、結果的に、その会社のカルチャーをつくっていたトップ層の人たちは去っていきました。ただ、どの組織にも必ずタケダイズムが好きな人がいて、その人たちが大きく活躍してくれるのです。いくつかそういう学びを経て、やはり表面的なカルチャーではなく、「自分たちは何をする会社で、そのために自分たちはここにいる」というパーパスが大切だと思うようになりました。

村岡 タケダのすごいところは、確信犯的にリスクをとって、失敗しながら学び、さらに大きなリスクをとって、また大きな失敗をして、また大きく学ぶというサイクルを繰り返してきたことです。IGPIもそうありたいし、日本でそういう企業をもっと生み出すサポートしたいと思います。

本当に「出る杭は打たれる」経験をしてきたのか?

村岡 日本で変革が進まない課題について、岩﨑さんはどのように捉えていますか。

岩﨑 最近よく「平和ボケ」「危機感が足りない」と言われますが、人間は本当に危機感を感じたら何かします。今のスピードでテクノロジーが進み続け、環境やビジネス形態が変わっていくときに、今あるものが続くという幻想を抱いているほうがリスクだと、みんなどこかで必ず気づきます。だから、本当に突き詰めて対話をすることが重要です。たとえば、今のビジネスモデルで満足している人には、それがいつまで続くのかと聞いてみる。3年か、5年か、10年かと質問を重ねると、どこかで通じなくなると、誰もが感覚的に思っています。では、いつ変えるべきなのか。そう考えていくと、リスクのサイズがわかってきます。こういう問いかけを経営者が自らすることが大切だと思います。

村岡 IGPIは今が変わるべきときです。グループの仕組みを持株会社の形に変える予定ですが、戦略的な新規事業の探索を国内外でより機動的に進めやすくするためです。また、子会社ごとにスピード感を持って外部と資本や業務の提携がしやすくなります。IGPIグループのメンバーにとっては新しい領域にチャレンジする機会を更に増やすことができますし、FA(フリー・エージェント)制度も活性化させたいと思っています。

岩﨑 組織の面では、もっとダイバーシティがあるといいですね。考え方の異なる人と接しないと、違ったものがあることに気づけません。考え方におけるダイバーシティが進めば、IGPIはこれまで培ってきた強みを活かして、グローバルな世界でも非常に大きなバリューを持てると思います。

村岡 それはもっと取り組むべきことですね。我々が創業以来、大切にしてきたのは、同じ価値観を持った人間が集まって、高い付加価値をつけていくことでした。それが間違っているとは思いませんが、価値観のレイヤーを1段上げると、よりユニバーサルになって、その下のレイヤーでは出身、ジェンダー、国籍、カルチャーにおけるダイバーシティが持てるようになります。

岩﨑 そうですね。グローバルになるほど、共通点は少なくなるように思うものですが、そんなことはありません。たとえば、このプロジェクトがうまくいけば、大切な人と美味しいものを食べよう。これは共通です。だけど、食べに行くのが中華料理か日本料理かというのは、共通ではない。ビジネスの考え方でもそれと同じです。パートナーの仕事の1つは自分のチームや人々の共通点を見つけることです。共通で目指すものに戻って考えられるようになれば、グローバル化は決して難しくありません。

村岡 タケダイズムを変えずに、ダイバーシティを実現し、それをパワーに変えているところはぜひ我々も学びたいと思います。「経営と経済に新しい時代を切り拓く」というIGPIのパーパスは、世界共通でIGPIグループとして通用するメッセージです。今後は更に自信を持ってグループ内外にワンワードとして発信していきたいと思います。

最後に、若い人たちにメッセージをいただけますか。

岩﨑 私が会った限りでは、IGPIの人たちはものすごいポテンシャルを持っています。いわゆる大企業内の1セグメントを担当している人たちと比べれば、深さは違うとしても幅広く世界を見ているので、キャップをはめなくても、どんどん力を発揮できると思います。

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