IGPIレポート 共創

IGPIレポート 共創 2025年号vol.40

ローカル経済圏における生産性向上 ~JPiXが取り組む賃金向上の好サイクル~

「朝から沢山食べて元気に働いてくださいね。」
日本共創プラットフォーム(JPiX)が保有する健康ランド「クア・アンド・ホテル」に初めて訪問した時に、朝食ビュッフェでさわやかな笑みを浮かべた従業員からかけられた一言だ。この何気ない言葉に、同社の顧客ロイヤリティの高さの秘訣が見えた気がした。またその裏にある経営の力、徹底した教育と共に顧客を大切にする時間と心の余裕を作るマネージメントの力も感じた。実際に掃除や配膳等の業務はロボットを使い業務の工夫も行っていた。こうした強みが決め手となり、JPiXは同社への投資を決定。お客様の「喜び」を大切にする姿勢は、クア・アンド・ホテルの経営方針の柱であり、JPiXの投資以降も企業の成長を後押ししている。

JPiXは活動4年で約1,000社についての投資相談を受け、その中でクア・アンド・ホテルのように、複雑性を有した特徴ある企業に投資してきた*。その結果、多くの企業が過去最高益を実現している。JPiXが有する各企業では「付加価値労働生産性」(付加価値≒粗利÷投入労働量)を重要な経営指標としている。

この指標を上げる事で、業績向上と給与Upの原資を作っている。日本の労働生産性はOECD加盟国中29位と、勤勉な人が多い国としては低すぎる順位だ。ただ、さもありなんという感じる事は実はとても多い。「安い賃金×低単価」や「やりがい搾取」モデルに依存し、低収益・低賃金・投資不足の負のサイクルに嵌っている企業は多く存在する。これを正のサイクルに転換するためには、業務の解像度を上げ、価値ある業務に人材を集中させることに加え、DXや設備投資による効率化も不可欠だ。
我々の投資先の一つで、「クア・アンド・ホテル」と同じホテル業界でもある「ホテル浦島」では昨年料理へ大規模な投資を行った。

これにより顧客満足度と単価が向上しただけでなく、盛付什器の工夫によって手間を削減し、食品廃棄も削減した。生産性の分子を引上げ、分母を引き下げた構図だ。当ホテルではこうした取組の積上げが功を奏し、足元は過去最高水準の利益を創出、その利益を原資に7%の賃上げを実施した。今後は大規模なリニューアル投資も行い、更なる生産性向上につなげていく。例えばホテルでは毎日3時間以内に、数百枚の布団を敷く必要がある。従業員は分単位で追われる日々だ。その問題を解消するため、和洋室に改装する。これにより顧客ニーズに応えつつ「布団敷き」業務を無くし、効率化や人手不足に対応する。このようにして『稼ぐ→投資→さらに稼ぐ』のサイクルを回し続けている。
JPiXの投資先に共通しているのは、従業員を価値ある業務に集中させるという点だ。ロボットに「朝から沢山食べて元気に働いてくださいね」と言われても、顧客満足度は高まらない。この言葉が価値を生むのは、生身の人間ならではのホスピタリティがあるからだ。

『一隅を照らす、これ国の宝なり』という最澄の言葉を、現代に置き換えると「現場の従業員の努力を価値として昇華させ、それを還元し未来へ繋げる」と言い換えられるのではないだろうか。ホテル浦島での賃上げは、従業員の誇りを高め、顧客対応の質向上にも繋がった。これからも我々は、投資先の成長を支える取り組みを通じ、生産性向上のロールモデルを築いていく。そして地域経済や業界に良い影響を与え続け、日本経済の発展に寄与していきたい。

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