事例

地域社会の維持・発展に不可欠な交通インフラの経営 [マジョリティ投資・事業経営]

地域社会の課題解決を直視する

地域社会の維持・発展に欠かせない交通インフラ事業に対する経営支援は、どのように行うべきか。IGPIが設立当初より、向き合ってきた課題である。2009年、交通インフラ・観光事業体の持株機能とサステナブルな事業価値向上機能を併せ持つ、みちのりホールディングスを設立した。それ以降、経営支援先は順次拡大しており、現在では5,300名の社員と2,400台のバス・鉄道・船舶などを保有する日本でも有数の交通・観光事業体を形成している。

集約的改善による構造不況からの脱却

地域の交通インフラ事業に限らず、ローカルのサービス産業の多くは、小規模・低マージン・低賃金・企画力の欠如という課題に直面しており、生産性を大幅に改善しなければ、これらの課題を解決するための原資を長期持続的に確保することができない。地方の交通インフラ事業者は、地域を代表する事業者であっても売上規模は50~100億円程度である。また、人材は常態的に不足しており、労働生産性の改善の多くを労働分配の改善に充てなければ、交通ネットワークを維持することもままならず、構造的な不況から脱する施策を検討・実施する余力が生じない。そのため、みちのりグループでは、個々の交通インフラ事業者の経営改善効果を集約することで、こうした負のサイクルからの脱却を図ってきた。

みちのりグループは、大きく7つの交通事業グループ(福島交通、茨城交通、岩手県北バス、関東自動車、会津バス、湘南モノレール、佐渡汽船)を持つが、それぞれに長期持続的な経営改善を実現していくこと、そしてベストプラクティスを伝播させていくことは、決して容易でない。みちのりグループでは、各グループに経営者(縦串責任者)を派遣するとともに、持株会社の中に特定のテーマ別にベストプラクティスの伝播を図る専任の担当者(横串責任者)を設け、マトリックス型で経営を行っている。これは、地域社会や地元の社員に溶け込みながら、経営改革の最前線に先兵として飛び込み陣頭指揮にあたる縦串の機能と、圧倒的な専門領域に対する知見を各社固有の現場の状況を斟酌しながらベストプラクティスとして展開していく横串の機能双方が必要と考えたためである。このようなマトリックス型組織の指揮命令系統が混乱しないよう、縦串横串のバランスを取り、マネジメントとしての整合性を保っていくことは、交通インフラ事業のような労働集約型産業では、特に繊細な感性と並々ならぬ根気が必要である。

地域の交通インフラ事業者としての挑戦

また、移動需要は朝晩の通勤通学時間帯と日中の閑散時間帯とで大きく変動する。このため、地域公共交通会議等で協議のうえ、日中は人工知能(AI)を活用し、利用者からのリクエスト(呼出)に応じて運行経路とダイヤを最適化する呼出型最適経路バス(DRT)を積極的に導入している。みちのりグループでは、各地域の実態に即し、どのシステムが相応しいかという目利きができるデジタル投資人材がシステム事業者選定も担うため、運行も担う立場から各地域の事情に最適化したDRT導入を進めることができる。この点、地域実態を踏まえず自社のシステムを押し付け、長期にわたって運賃収入からの搾取を図るベンダーの思想に陥ることはない。

また、みちのりグループは脱炭素社会の実現を志し、電気バス促進に向けた取組みも展開している。電気バスを用いた運行管理を最適化し、エネルギー需給調整マネジメントシステムと一体化した電気バス向けエネルギーマネジメントシステム(バスEMS)の開発を進めているのだ。

事業特性を踏まえた経営支援の在り方の探究

みちのりグループに対する経営支援は、IGPIグループが安定的なステークホルダーとしての地位を保持しつつ、経営の現場で死闘格闘する経営人材を派遣するという形態から始まっている。IGPIは、経営支援にどの手法(この他には、コンサルティングやマイノリティ投資等)を用いるかは、事業が存続する社会的意義や長期持続性などを踏まえて決定している。

地域の交通インフラ事業は、不断の設備投資を必要とする。短期的な転売(投資の出口)による利益の確定を求める投資ファンドであれば、車両の更新投資を極力まで抑制するといった手法を用いることが、リターンの確保のために「最適」となってしまう場合がある。この原理は、地域交通の社会的存在意義・長期持続性に照らして考えると、地域社会を崩壊させてしまう危険性を孕むものである。そこで、地域の交通インフラ事業に対する経営支援は、経営支援を行う期間を定めず、永続的に保有するという考えのもと、マジョリティ投資と経営人材の派遣という形式を採用している。

これは、マジョリティ投資、マイノリティ投資、コンサルティング、そして経営資源の配分の仕方に熟知しているIGPIグループならではの経営支援の在り方であると言える。

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